ホームステイとは、何のために行くのか? 

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■ 1 教育の一環として
■ 2 ホームステイの特殊性
■ 3 中学生の場合
■ 4 何のために
■ 5 終わりに

執筆者: 南日本カルチャーセンター 代表取締役社長  濱 田 純 逸

■ 2 ホームステイの特殊性

 現在、日本から海外への出国者数は、年間で約1900万人にもなろうとしております。その内容も多種多様です。個人渡航もあれば、団体旅行も相変わらず盛んですし、2泊3日程度から長期滞在型の期間的な幅もあります。渡航目的も、観光、業務、留学など多彩ですし、渡航先も世界のほとんどの国に、日本人は行っていると断言できるかもしれません。

そのような背景の中、滞在方法という視点から、海外での時間を考えて見ましょう。当然のことながら、外国での滞在方法は、圧倒的に「ホテル」であり、海外渡航が自由化されてから現在に至るまで、大多数がこの方法なのですが、よく考えてみれば、この方法をとっているのは、目的が「観光」だからであり、観光地や訪問地の移動に伴い、ホテルを転々とするのも、至極当然な話です。もちろん、目的が「業務」であったとしても、ホテル滞在が圧倒的に多いのですが、この場合も滞在が長期になると、滞在方法は変わっていきます。つまり、滞在期間が長くなるほど、「ホテル」から「コンドミニアム」「寮」に変わり、さらに長くなれば、「アパート」「借家」になっていくわけでしょう。当然ながら、人は廉価で、快適な滞在方法を求めて変化していくわけです。観光より仕事、仕事より留学、留学より海外赴任と、渡航目的の変化に伴い、滞在期間も長期化し、それに伴い、滞在方法も変わっていくことがよく分ります。

そんな滞在方法しかなかったところに、あくまでも子ども達や学生を対象とした「ホームステイ(民泊)」という、極めて斬新な方法が生まれたわけです。もともと、ホームステイという滞在方法は、民間のボランティア活動を起点として生まれたものです。そして、異文化を持つ外国人を、自宅にボランティアで受け入れるホストファミリーの目的は、完全なる国際交流でした。つまり、異文化を持つ子ども達のために、ボランティアの一般人が自宅を開放し、自分たちの言語、文化、習慣、日常生活を提供してくれたのです。一緒に同居することで、恒常的に時間と空間を共有することができ、両者が自分の持つそれらを紹介しあい、理解しあう環境をホームステイに求めたのです。社会が国際化していき、相互国家間の人的交流が盛んになり、文化交流や異文化理解の必要性が生まれ、それを学習する最適な方法として、一般家庭が善意で、外国人に家庭を提供するということは、なんと素晴らしいことだろうかと思います。同時に、滞在する側は、自国に関する文化や自然、言葉や習慣などについてホスト側に紹介し、お互いが相互理解の視点で、ギブアンドテイクの視点で学び会うという共存共栄の考え方など、本当に、初期のホームステイの持つ理念は、善意と信頼の中で誕生したものだったのです。

でも少し考えてみると、この「ホームステイ」という滞在方法は、かなり特殊なものであることがよくわかります。まず、第一に、ホームステイするために海外に出向くわけですから、当然、参加者にとって、旅行の側面を持っているのですが、人間の生活の基盤である「衣食住」の形態が、自国における生活とほぼ変わらないという側面を持っているという事です。旅行とは、「自宅を離れてある期間、ほかの土地で暮すこと」という辞書の説明からすれば、自宅同様の家があり、家族があり、自分の部屋があり、いつもと同じ服を着て、そこで生活するホームステイは、旅ではないという概念が、定義上においても、実質的にも醸成され易いように思われます。つまり、「ホストファミリー」という家庭の中に入り、そこの家族の一員として過ごすわけですから、ホテルを転々として旅行するのとは、全く内容が異なります。また、そのホストファミリー宅で、参加者は極めて日常的な家庭生活の時間を送るだけですから、そこに滞在する時間が長ければ長いほど、旅行者というより住民としての認識が、体験上においても強くなっていくわけです。帰国直後の空港で、参加者たちが日本の親に訴える、「アメリカの家に帰りたい。」という、「行く」のではなく「帰る」という表現の中に、「ホームステイ」の持つ本質的な意味と彼らの意識を見ることができます。
次に、滞在方法である「ホームステイ」そのもの、つまり滞在する方法自体が、目的の一つになっているということです。「ホテル」に滞在する限りにおいては、旅人でしかなく、旅行者として、よそ者として、土地の人は接するだけです。でも、家族の一員として、住人として生活するホームステイは、旅行者としての生活ではなく、住人という意識での生活です。「ホテル」は滞在するためのものですが、「家」は生活するためのものであり、この認識の違いが、「ホームステイ」を魅力あるものにする要因の一つです。でも同時に、「ホームステイ」が「ホテル化」する最大の原因にもなります。つまり、「ホームステイ」すること自体が目的でもあるため、時として、自宅の延長と考え、「ギブアンドテイク」の、参加者にとっての「ギブ」を失念する元凶となりやすく、このことは国際理解プログラムの本質に関わる問題にもなっていくわけです。

第三に、目的がその国を外面的だけではなく、内面的にも理解するためのものであるという事です。そして、異質の文化、習慣、言語、生活、また価値を体験的に実感し、理解する事にあります。つまり、家族という小さな組織の中に入って、内側からその国の本質を見ることができるわけです。そして、そのことは自国における同様の日常生活の体験と対比させながら、相対性をもって認識することができ、このことが自国を「内側」からも「外側」からも見る複眼性を養っていくことに繋がっていきます。

以上のように、ホームステイの特質は、観光的な旅行者ではなく、住人という意識の中で、その土地の生活を実感するというところにあるわけです。そのような環境で生活できるところが、一般的な旅行に飽きた、多くの日本人の心を捉えたのかもしれません。

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