ホームステイとは何なのか。ホームステイでは何が得られるのか。40年以上にわたって、国際交流教育事業に関わってきた南日本カルチャーセンターによるホームステイの現状と提言です。

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■ 1 変わりゆくホームステイ
■ 2 変化の背景
■ 3 ホームステイプログラムと
    ホームステイツアー
■ 4 ホストファミリーへの影響
■ 5 一般的な参加者の現状
■ 6 参加者と主催者に求められるもの
■ 7 異文化では、始めにトラブルありき
■ 8 最後に

執筆者: 南日本カルチャーセンター 代表取締役社長  濱 田 純 逸

■ 3 ホームステイプログラムとホームステイツアー

 このような現状の中、実施されているホームステイは、完全に、「変化」から「分化」しております。現時点では、基本的には「二極化」していると思われますが、先述しました商業主義的な視点から、消費者のニーズに呼応する形で、今後、さらに「多極化」して行くのではないかと予想されます。

まず、その二極化しているホームステイの一つは、異文化理解や相互理解の「学習の場」としてホームステイを位置づけている、従来からの認識に基づくホームステイです。言い換えれば、ホームステイの発足時点からの理念を継承し、一貫した教育性をプログラムの中核に置いているものです。この類のホームステイの大きな特徴は、ホームステイに出発する事前の学習を徹底して重要視しているところにあるといえます。参加者による事前の異文化理解と相互理解の学習と、主催者による事前のこれらの学習指導なくしては、ホームステイは観光旅行でしかなく、教育的効果は希薄であるという理念の上に、この認識を持つホームステイは成り立っています。ですから、これらの事前学習の欠落は、参加資格の欠格事項と考えているところが、特筆すべきことでしょう。ここでは、このような理念と方法論を持つホームステイを、「ホームステイプログラム」と仮称しましょう。

もう一つは、従来のホテル滞在に代わって、ホームステイという斬新な方法を取り入れ、観光やレジャーやお買い物などに、さらに英語学習や国際交流をも追加した、盛りだくさんの、いわば「ホームステイツアー」(仮にこう呼びます)ともいうべき、娯楽性と教育性を混在させた内容のものです。明らかに、「ホームステイプログラム」から派生したものであり、気軽さと容易さにおいては、観光旅行と同等、同質のものでしょうし、誰もが自由に参加できます。当然、事前における厄介な異文化理解や相互理解の学習はないでしょうし、わずか数時間の事前説明会を経て、ホームステイツアーに出発して行きます。この形態の多くは観光旅行会社によって主催、運営されていることが多く、海外の修学旅行にホームステイが付加されたものなども、この形態を取っているといえるでしょう。そして、この2番目の形態は、その娯楽性と教育性の色合いが、そのツアーの内容によって著しく異なり、大きな幅の広がりを見せており、今後、さらにこの形態が、「より一層、観光旅行化した形のホームステイ」に、加速度的に分化していくような予測をしております。つまり、「教育性」よりも、益々「娯楽性」の色合いが濃くなっていくということです。何故なら、「学業」は厄介であり、「娯楽」は安易であるのは、人の知るところであり、「教育性」と「娯楽性」がプログラムに混在するのであれば、安易な方向に流れていくのは必然だからです。この視点から見れば、観光旅行会社のホームステイ事業への参入が、ホームステイに多様性と娯楽性をもたらせていったというのは、紛れもない事実だと思います。彼らの参入によって、あっという間に商品の開発が多様化して行きましたし、渡航先国も海外旅行の人気国と相乗しあうように、「売れる国」でホームステイを実施するという傾向が顕著に見られましたし、ホームステイする国を次年度は変えて、何回も同様の商品を勧めるという見事なほどの商業主義が展開されていったのです。
これら大きく異なる二つの「ホームステイ」を中心として、目的国や期間の長短、主催者のホームステイに対する考え方、参加者の認識や保護者の価値観などが複雑に絡み合い、混濁とした状況を作り出しています。そして、区別できない、同じ「ホームステイ」という名称で、販売、流布されているところに、消費者サイドにとっての問題の深刻さがあり、消費者における需要と、主催者における供給の不一致が発生しているように思えます。つまり、異質の商品であるものが、同じ「ホームステイ」という名称であるがゆえに、消費者の求めるものと、主催者側の提供しようとするものの間に、誤解や錯誤や齟齬が発生しやすい環境にあり、結果的に、両者にとって不幸な現実をもたらす一因をなしていると思われます。ホームステイにおいてトラブルが多発している原因は多様ですが、根源的なものの一つは、これらのことに起因しているように思われます。でも、このことに気づいている者は極めて一握りであり、現在においてもこのことは深く、静かに潜行しており、非常に根の深い問題となっていくと思われます。そして、問題の原因が根幹的なものだけに、それがさらなる問題の拡散を生む現実が、既に存在しております。

例えば、先述しました、勝手に市長の椅子に座って写真を撮る生徒は、「ホームステイツアー」や「観光旅行」に参加すべきであって、「ホームステイプログラム」に参加したことは、間違いだったのではないかという素朴な疑問が生まれます。事前の学習を含め、面倒な手続内容は、本人にとっても大きな苦痛でしかないでしょうし、主催者を含め、お世話する側の人にとっては、意識の異なる生徒への難しい指導が予測されるでしょうし、両者にとって不幸なことなのかも分かりません。事実、この生徒の場合、事前の注意と指導を守らなかったことで、現地の関係者は、市の広報課から大きなクレームを頂きました。受入れ側の現場では、これらの少なくとも二面性を持つ、ホームステイのそれぞれの特徴を、正確に把握し、それによる対応がなされなければ、今後ますます、様々な問題が発生してくる可能性がでてきます。そして残念ながら、現実では、指摘されたそのような対応は、受入れ側の現場では、全く手付かずの状態です。そしてそれは、実際にホストファミリーにも影響が及んでいきます。つまり、ホームステイの場合、参加者側と受入れ側という両面があり、参加者側の言動が受入れ側に与える影響を、主催者は常に考えなければならないという現実があります。ですから、少なくとも日本における主催者は、「ホームステイプログラム」と「ホームステイツアー」という異なる性質のものを、はっきりと区別し、参加者側に注意深く説明し、より正確な認識と説明と事前の研修を、提供する義務があると思います。そして、参加者側も同様に、「ホームステイプログラム」と「ホームステイツアー」の違いを明確に理解し、自分の求めるもの、自分の参加しようとしているものへの理解を深め、錯誤のないようにする必要があると思います。

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